民主主義的変革にむけたエクアドルの人々とともに
〜 9・30 キト事件を憂慮する 〜

9月30日、エクアドルの首都キトで、政府の給与改革案に反対する警察官らのデモによって、
高速道路や国際空港が閉鎖され、キト市内の商店や学校が閉鎖を余儀なくされました。
デモ隊の一部が警察本部ビルに立てこもり、説得に訪れたコレア大統領に向けて催涙ガ
ス弾を撃ち込みました。コレア大統領は、催涙ガスを吸うなどして警察病院で治療を受け
ていましたが、デモ隊が病院を包囲し、一時軟禁状態に陥りました。

大統領は現在は大統領府に復帰して対応に当たっていますが緊張は続いています。政府
は非常事態を宣言し、軍に対して治安維持出動を命令しました。閣僚および国会議長、軍
部などもコレア大統領支持を打ち出しています。各国政府も今回の事態に対して事件を引
き起こした側を非難する声明を出し、南米1 2 カ国で構成される南米諸国連合
(UNASUR)や南北アメリカおよびカリブ海35カ国で構成される米州機構(OAS)も緊急
会合を開いて対応を協議しています。

先月、日本を公式訪問したばかりのコレア大統領は、来日の際に石油開発を中止しアマゾ
ンの生物多様性を保全するヤスニITT イニチアチブへの参加を政府関係者およびNGO
関係者に呼びかけました(1)。また鉱山開発に揺れるインタグ・フニン鉱山の開発の中止を
訴えるNGOに対して「心配ない。私はインタグへの鉱山開発を許可しない。」と明言しまし
た(2)。東京の国連大学で講演した際には、「ネオリベラルの『ワシントン合意』に合意した
覚えはない」と明言し、エクアドルおよび南米各地で進む変革の先頭に立つ姿勢を示しま
した(3)。

今回の事件で負傷したという報道のあったリカルド・パティーニョ外務大臣は、来日時に日
本の平和NGO との会合に出席し、両国間のNGO レベルでの交流に賛意を示しました
(4)。訪日の最終日に広島を訪れたコレア大統領は、国家元首としてはじめて国立広島原
爆死没者追悼平和祈念館を訪れ、被爆被害者の証言に耳を傾け「核兵器廃絶に向け私
たちは行動を起こしている。過去から学ぶことができ、広島、長崎の悲劇を二度と経験しな
いよう努力する」ことを約束しました。(5)

エクアドルの人々は、これまで新自由主義、「ワシントン合意」に従ってきた政権により、石油
依存社会のなかで貧困と債務に苦しめられてきました。2007年、エクアドルの人々の変革
への熱意はコレア大統領を押し上げましたが、これまで不安定な情勢を余儀なくされてき
たエクアドルにおいて変革を進めるには、民主的議論や社会的対立は避けられません。先
住民族や地域社会の頭ごしに政策を進めようとするリーダーシップに対しては、憲法や民
主的議論というブレーキも必要でしょう。(6)

しかし、今回のような事態によってエクアドル民衆の挑戦が挫折させられてはなりません。
今回の事件の背景には、それまで依存してきた石油収入の減少に伴う財政逼迫があると
も伝えられています。ヤスニITTをはじめとするエクアドルの挑戦に、各国政府・NGOが答え
る必要性をあためて明らかにしました。

コレア大統領による不当な債務の帳消しの実施を民間レベルでサポートし、おおさか社会
フォーラムに参加するために今年3 月に来日した現地NGO「Jubileo 2000Red
Guayaquil」のエグゼクティブコーディネーターのデルファ・マンティージャさんは、今回の
事態を次のように語っています。

「人々が望む変革の動きを進めようとしていた国家の栄誉を汚すために、警察を利用しよ
うとする政治的なクーデター勢力の歩みを止めるよう呼びかけます。変革は平和になされ
なければなりません。それが私たちが引き継いできたものなのです。かつての闘士であるエ
ロイ・アルファーロが生まれたモンテクリスティではじまった変革のプロセスを止めることは
できません。人々に、若者たちに、女性に、農民に、そして同胞の国々に、この変革のプロセ
スを妨げることしか考えていない動きを注視していくことを求めます。民主主義を連帯と勇
気で織り上げていきましょう。私たちの願う民主主義のために歩みを続けましょう。」(7)

わたしたちは、エクアドル民衆の民主主義にむけた変革のプロセスをサポートするという立
場から、今回の衝突を憂慮するとともに、日本社会がコレア政権による進歩的諸政策を支
持することを訴えます。今後、民主主義の強化のために、コレア政権が市民社会と引き続き
対話を深めることを願います。

訪日したコレア大統領と会談した菅首相は、安定的な投資環境の整備を要請するとともに、
「10 月に名古屋市で開催されるCOP10(生物多様性条約第10 回締約国会議)に向け
てエクアドルと緊密に協力していきたい」と述べ、コレア大統領も「COP10 の成功のために
協力していきたい」と返答しています。日本政府は一刻も早く今回の事件への関心を示し、
コレア政権および進歩的諸政策への支持を明らかにする必要があると考えます。(8)

2010年10月1日


賛同:10月8日現在

【13団体】
NPO 法人エクアドルの子どものための友人の会(SANE)
開発と権利のための行動センター
ジュビリー関西ネットワーク
ニュー・インターナショナリスト・ジャパン(NI ジャパン)
ATTAC Japan(首都圏)
バイオダイバーシティ・インフォメーション・ボックス
アジア太平洋資料センター(PARC)
地球の子ども新聞
ナマケモノ倶楽部
ピースボート
ATTAC 京都
ATTAC 関西グループ
NGO人権・正義と平和連帯フォーラム福岡

【47個人】
彦坂諦(作家)
小倉英敬(神奈川大学教授)
石垣敏夫(市民が求め創るマニフェストの会)
浅田明(Freelance Mathematician)
日暮邦行(特定非営利活動法人バルサ エクアトリアナージェイピー)
紅林進(東京在住)
印鑰智哉(PARC 会員)
寺尾光身(名古屋工業大学名誉教授)
吾郷健二(西南学院大学名誉教授)
紺野茂樹(哲学者)
酒井徹(名古屋ふれあいユニオン運営委員長)
田中靖枝(波風の会)
竹林隆(大阪教育合同労働組合書記長)
中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)
大倉純子(債務と貧困を考えるジュビリー九州)
駒田聡(АГОРА СОФИЯ)
増田一夫(東京大学教員)
攝津正(芸音音楽アカデミー講師)
中西綾子(横浜市)
山田公一
大橋真司(行政書士・公表可)
西井和裕(フィリピン情報センター・ナゴヤ運営委員)
谷俊夫
深田和秀(福島市)
田中慶子(千葉市民)
田中和恵(千葉市民)
橋野高明(同志社大学人文科学研究所 研究員・日本キリスト教団 牧師)
一井不二夫(郵政労働者ユニオン京阪地域支部支部長)
田中泉(東京都)
野村修身(工学博士)
福田静夫(日本福祉大学名誉教授)
新木秀和(神奈川大学准教授)
京極紀子(学校事務職員労働組合神奈川)
昼間範子
青柳行信(NGO人権・正義と平和連帯フォーラム福岡・代表)
寺尾純平(ATTAC 会員)
今村公保(日本山妙法寺僧侶)
阿部太郎(教員)
野村民夫(アムネスティ日本個人会員)
マリネッリ恵(東京都杉並区 主婦)
徐隆徳
松村紀之(非正規労働者)
石井明美(ふくろう工房主宰)
稲月隆(埼玉県)
増田都志美(vaww-net japan)
他匿名2名

(1)http://www.youtube.com/user/jnpc#p/u/0/FD1W0w-kmrg(9/6 日本記者クラブ)
ヤスニITT イニチアチブの解説および市民集会のようすはこちら
http://www.newint.org/blog/japan/2010/09/24/yasuni01/(9/6NI ジャパン)
(2)http://www.sloth.gr.jp/ecua/ecua_top.html(9/7 ナマケモノ倶楽部)
(3)http://videoportal.unu.edu/579(9/7 国連大学)
(4)http://www.peaceboat.org/english/nwps/cn/arc/100923/index.html(9/6 ピース
ボート[英文])
(5)http://mainichi.jp/area/hiroshima/news/20100908ddlk34040628000c.html
(6)http://cade.cocolog-nifty.com/ao/2010/10/post-77ad.html
コレア政権の対話姿勢に関する問題点は、今回の事件に関してインタビューに答えて
いるアルベルト・アコスタ(元国会議長、ヤスニITT提案の考案者の一人)も指摘している。
http://www.mediacoop.ca/story/arrogance-regime-starting-fracture-all-coup-att
empts-must-be-rejected/4757(英語)
http://www.publico.es/internacional/339549/-mi-pais-sufre-una-deriva-autorita
ria(スペイン語)
(7)
http://www.jubileo2000.ec/latest/a-respaldar-la-democracia-a-defender-la-paz.h
tml
(9/30 Jubileo 2000 Red Guayaquil)
(8)http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_kan/ecuador_1009.html( 9/6 総理官
邸)
日本政府は外務報道官談話を10月1日に発表したが、呼びかけ文は1日現在のままと
した。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/22/dga_1001.html(10/1 外務省)



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